concept

理学と美学・人文学を
総動員して「生命」本来の統合的な探究を試みる

細胞分子ネットワーク研究室岩崎 秀雄 教授

担当科目:生物学史、遺伝学、生命美学、
生命の情報と進化、など

  • 研究紹介research

    生命について、理学的な研究と芸術創作・研究の双方から探究する、世界的にも稀な研究室です。科学的に生物の在り様、生きざまを紐解いていくことは重要だし、すごくエキサイティングです。同時に、生命は生物学が見出したわけではなく、社会的、歴史的、思想的に複雑な蓄積を持つ複合的な概念でもあります。大事なことは、これらを同時に探究しながら相互の関係性を読み解いていこうとすること。私たちは芸術を、こうした学際的な探究を育む優れた探究の場と捉えて取り組んでいます。

  • メッセージmessage

    理学系ないし美学系(芸術創作含む)のどちらに興味を持っている方も歓迎です。高校の際、理系文系に無理やり引き裂かれることに違和感を覚えた方は居ませんか?生命を含む複合的な対象の探究には、しっかりとした専門の軸を踏まえつつも既存の枠を超え、多様なアプローチを自由に組み合わせて冒険する必要があります。深いところまで掘り下げて探究することで世界の見え方が変わってくるような、そんな研究や実践を一緒に行っていきたいと思っています。

研究説明research activities

ここは、微生物を対象とする実験生物学と、生物種を問わずにより広い立場(人文学、芸術)で生命を実践的に探究する活動(生命美学)を同時に行う、世界でもほとんど例のない研究室です。以下、理学系と美学系に分けてそれぞれ説明します。

A. 理学系研究:シアノバクテリアという光合成微生物を使ってパターン形成の研究をしています。高等生物のいるところ、必ず微生物がいます。イキモノの営みを理解するには、その生物だけでなく、その生物が生育する環境をよく知る必要があります。現在の地球上の分子状酸素の40%以上は(高等植物ではなく)シアノバクテリアが供給しています。池の緑の6-7割はシアノバクテリアです。シアノバクテリアは僕らの身近にいるだけでなく、極地や砂漠にも生息しており、地球上で最も広範囲に生息している生物群です。ですから、「地球に生きるすべ」が様々な形で凝縮されているんです。
僕たちはシアノバクテリアを使って、特に生きものがひとりでにリズムやカタチを生み出す現象を研究しています。具体的には、①「細胞内でリズムが刻まれ、環境のサイクルと同調できる体内時計(概日リズム)」と、②「細胞集団が運動を伴いながら、自律的に大きな空間パターンをつくっていく集団行動パターン」を対象としています。いずれも、バクテリアに限った話でなく、ヒトにも見られるような、生物に普遍的な現象です。つまり、生命に共通してみられる原理を、できるだけシンプルな生物を用いて解明したいというスタンスです。同時に、微生物ならではの面白い生きざまを知りたい!という好奇心もあります。研究対象はシアノバクテリアですが、分子遺伝学、ゲノム解析、タンパク質の生化学、遺伝子操作、顕微鏡での定量的な解析など、基盤的な技術を動員するので、将来高等動植物の研究などに興味のある方にも有用な基礎技術や考え方を提供できます。

図1.シアノバクテリアの培養の様子や遺伝子発現リズムの可視化の様子

図1.シアノバクテリアの培養の様子や遺伝子発現リズムの可視化の様子

B. 美学芸術学研究・制作:ただ、それだけでは「生命とは何か」という巨大な問いに答えることはできません。例えば、生物学の知識がなくても僕たちは特定の生命観を共有しているように思えますよね。子供だって、別に細胞も種もDNAを知らずに何が生物、生命か体験的に把握しています。なぜそれが可能なのでしょうか。こう考えると、僕たちの生命観を支える重要な要素が、生物学の教科書には載らないまま置き去りになっていることに気づきます。
実際、生命の探究は自然科学の特権ではなく、社会や文学や芸術を含む文化の中で人類がずっと模索してきた大テーマです。でも、そこで探究されてきたことが、生物学とどのような関係があるのか論じられることは殆どありません。文学部で論じられている生命論と、理工学部で研究されている生物学にどのような関係があるのか。それ自体、本来は総合大学でなされるべき重要な課題のはずです。が、実際にはそういうプラットフォームが殆どないので作りました(metaPhorestと命名)。ここでは、生命に興味のあるアーティストや文系の研究者を交えた活発な研究・制作活動が行われ、国際的にも注目されています。こうした探究では、理系の研究以上にテーマを自分でゼロから立ち上げ、積み上げていく必要があります。厳しさもありますが、その人にしかできない研究・実践が可能になります。またこの分野は、在野で行われる生物学研究の実践とも関連しているため、DIYバイオやコミュニティバイオと言われる活動にも携わっています。コミュニティベースのバイオの活動に関心のある方にもお勧めします。

図2.研究室で生まれた生命美学プロジェクトの例(上:『金魚解放運動』、下:『aPrayer 3.0:人工知能のための/による慰霊』)

図2.研究室で生まれた生命美学プロジェクトの例(上:『金魚解放運動』、下:『aPrayer 3.0:人工知能のための/による慰霊』)

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略歴ー

名古屋大学大学院理学研究科助手、早稲田大学助教授/准教授、JSTさきがけ研究員を経て、2012年より早稲田大学理工学術院教授、2007年より生命美学プラットフォームmetaPhorest主宰。文部科学大臣賞(メディア芸術祭優秀賞、2019)、グッドデザイン賞(2017)、ゲノム微生物学会奨励賞(2011)、文部科学大臣表彰若手科学者賞(2008),日本時間生物学会奨励賞(2003)など受賞。

学歴ー

1995年
名古屋大学 農学部卒業
1997年
名古屋大学 大学院博士前期課程修了(人間情報学研究科)
1999年
名古屋大学 大学院博士後期課程修了(理学研究科)/博士(理学)