concept

光を用いて物質の性質を探り、得られた知見で社会貢献を目指す。

光物性工学研究室宗田 孝之 教授

担当科目:量子論、電子回路A,電磁気学A,B・
同演習

  • 研究紹介research

    光は電磁波の一種であり、物質中の電子系と相互作用します。その結果、物質を通過する間に光の性質に差が生じます。この差を適切に評価することで物質の性質をモニタできます。無機物も有機物も物質固有のすなわち個性的な電子系を持っています。また、可視光の波長範囲であれば光の粒子のエネルギーは物質を侵襲することはほぼありません。つまり、光を用いて非接触かつ非侵襲的に物質の性質を調査できます。この原理を利用して、光を探り針として各種物質の性質を調べています。

  • メッセージmessage

    みなさんが将来直面する問題は、どれをとっても複数の異分野が融合した問題であることは火を見るよりも明らかです。そのような問題に直面した時、慌てず騒がず、問題を多角的にとらえ、独自の視点に基づいた攻略法を見出だせるだけの素養を在学中に涵養して欲しいと考えています。本学科・専攻では、皆さん独自の学問体系が構築できるよう、多種多様な分野で極めて高度な専門知識を習得した21名の教員がお手伝いします。

研究説明research activities

指紋は「万人不同」「終生不変」であることから個人特定の証拠物として有効な手段と考えられています。裁判員制度の定着に伴い、証拠物の付着状況や形を画像によって分かり易く法廷で表現することの重要性が増しています。一方で、DNA型鑑定精度の飛躍的向上は、潜在指紋の検知・検出時にDNA型鑑定と干渉しない方法を要求しています。 図1 :科学技術戦略推進費で研究開発したハイパースペクトル・イメージャ(HSI) 図1:
科学技術戦略推進費で研究開発したハイパースペクトル・イメージャ(HSI)
法廷と現場のニーズに応えるには、非接触・非侵襲計測を用いて現場に潜在する指紋を検知・検出する方法の開発と改良、取得データの画像化に係る解析方法・提示方法の探索、警察庁が保有する指紋データベースとの照合を可能とする画像互換性の担保に関わる研究などが必要となります。これら課題に、科学警察研究所などと協働して挑戦しています。
私たちは、まず、指紋成分であるアミノ酸や脂質ならびにそれらの派生物が光学的に活性な、すなわち照射された光の波長に応じて固有な蛍光を呈する物質であることに注目しました。光を探り針とすれば、非接触な計測を実現できます。非侵襲な計測実現のため、指紋と共に残留するDNAを破壊しない照射光の波長を選択しました。具体的には警察庁が潜在指紋探査のために全県配備していた高出力緑色レーザーを活用することにしました。
潜在指紋からの蛍光を検出する機器として、2次元画像の画素毎に所望の波長範囲のスペクトルが格納された三次元データキューブであるハイパースペクトル・データ(HSD)を短時間で計測できるハイパースペクトル・イメージャ(HSI)を開発しました。図1参照。その意図は、潜在指紋の状態を表す蛍光スペクトルを解析した結果を反映した指紋画像の構築の目論見にあります。蛍光スペクトルには、指紋成分の劣化過程に関する情報が含まれていることも期待しました。

図2と3に、緑色レーザーによる肉眼では見えない潜在指紋を探査している現場の様子と、検知できた潜在指紋のHSDをHSIによって検出している様子を示しています。
指紋に関しては、標準スペクトルなるものは存在しません。従って、計測されたHSDの解析は、例えば、HSDごとに含まれるスペクトルの検討に基づいた単一波長画像の代数計算、統計的な手法に基づく各種スペクトル解析方法の適用など、試行錯誤を繰り返す必要があります。

  • 図2:肉眼では判別できない潜在指紋の有無を高出力の緑色レーザーで探索している画像

    図2:
    肉眼では判別できない潜在指紋の有無を高出力の緑色レーザーで探索している画像

  • 図3:前出のスクリーニングで検知した潜在指紋を、HSIで検出している画像

    図3:
    前出のスクリーニングで検知した潜在指紋を、HSIで検出している画像

図4は、HSDから再現した肉眼では見えない潜在指紋の画像です。図5の左端と左から2番目パネルに例示したのは、2つの指紋と掌紋が重なっていた場合に検出されたHSDから再現した生の蛍光画像と典型的な単一波長画像です。右端パネルの2つのスペクトルから指紋と掌紋の成分は劣化の具合が異なることが示唆されます。それらのスペクトルを参考にして2つの単一波長画像を選択し、それらの重ね合わせ画像を描いたものが3番目と4番目のパネルです。この例は、重なっていた指紋と掌紋を、それぞれの単独画像に分離できた例の一つです。図5の描画に用いたHSDに対して独立成分分析を適用しところ、指紋と掌紋各々の単独スペクトルと対応する画像が自動的に得られました。推定された二つのスペクトルは、指紋を押印する前に掌紋が付着していたとの指紋試料作成手順と矛盾しない差異を呈していました。
現在、アムステルダム大学と科学警察研究所の先行研究を参考にして、指紋が現場に付着してから経過した時間(指紋寿命といいます)を推定する方法の確立に挑戦しています。

  • 図4:HSIで取得したデータ(HSD:ハイパースぺクトル・データ)から再現された潜在指紋

    図4:
    HSIで取得したデータ(HSD:ハイパースぺクトル・データ)から再現された潜在指紋

  • 図5:左端はスクリーニング時に赤色だけを通すゴーグルで潜在指紋を見た画像。そのHSDを取得し、潜在指紋を再現しただけの画像(左から2番目パネル)には2つの指掌紋が重なっていた。HSDが含むスペクトルを分離する処理を施した画像で見えた単独指紋(3番目パネル)と単独掌紋(4番目パネル)の分離画像。分離可能な原理であるスペクトルの差異(右端パネル)。

    図5:
    左端はスクリーニング時に赤色だけを通すゴーグルで潜在指紋を見た画像。そのHSDを取得し、潜在指紋を再現しただけの画像(左から2番目パネル)には2つの指掌紋が重なっていた。HSDが含むスペクトルを分離する処理を施した画像で見えた単独指紋(3番目パネル)と単独掌紋(4番目パネル)の分離画像。分離可能な原理であるスペクトルの差異(右端パネル)。

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略歴ー

1984年4月
早稲田大学 理工学部 助手
1986年4月
静岡大学 工業短期大学部 専任講師
1988年4月
早稲田大学 理工学部 専任講師
1990年4月
早稲田大学 理工学部 助教授
1997年4月
早稲田大学 理工学部 教授
2004年9月
早稲田大学 理工学術院 教授(現在に至る)

学歴ー

1980年3月
早稲田大学 理工学部 電気工学科卒業
1985年3月
早稲田大学 大学院 理工学研究科電気工学専攻博士後期課程修了(工学博士)